

今日の医療現場でよく耳にするようになった「ウェルビーイング」という言葉。もしかすると、「ウェルビーイングって、看護の世界ではどんな意味があるんだろう?」「具体的にどうすれば看護に活かせるの?」と疑問に思っている方もいるかもしれませんね。この記事では、看護の現場で働く皆さんや医療に関心のある方を対象に、ウェルビーイングという概念をわかりやすく解説し、日々の実践に役立つヒントをお届けします。
本記事で解説する「ウェルビーイング」は、単なる肉体的な健康だけでなく、精神的、社会的、そして倫理的な側面を含んだ「満たされた状態」を指します。特に看護の視点から、その重要性や実践方法を深掘りしていきます。
「ウェルビーイング」という言葉、最近よく耳にしますよね。直訳すると「幸福」や「良好な状態」という意味になりますが、もう少し深く掘り下げてみましょう。
ウェルビーイングは、世界保健機関(WHO)が憲章で定義している「健康」の概念に近いと言われています。すなわち、「単に病気や虚弱ではないというだけでなく、肉体的、精神的、社会的に完全に良好な状態であること」です。これに加えて、近年では「生きがい」や「自己実現」といった側面も含まれるようになり、より多角的でポジティブな状態を指すようになりました。
では、看護におけるウェルビーイングの意味合いは、どう解釈されるのでしょうか?看護の場では、患者さんが単に病気から回復するだけでなく、その人らしく生活し、尊厳を保ち、希望を持って生きることを支援する視点が不可欠です。例えば、がん患者さんが治療を受けながらも趣味を続けられるようサポートしたり、慢性疾患を持つ方が病気と付き合いながら充実した日々を送れるように調整したりすることも、ウェルビーイングを高める看護実践の一部と言えるでしょう。
つまり、看護師は患者さんの身体的な健康だけでなく、心の状態、社会との繋がり、そしてその人らしい価値観を尊重し、「その人にとっての最善の満たされた状態」を共に探求する役割を担っているのです。
なぜ今、これほどまでにウェルビーイングが看護の世界で注目されているのでしょうか?いくつか背景を深掘りしてみましょう。
現代の医療は、治療中心から予防、そして「生活の質(QOL)」を重視する方向へと大きく変化しています。高齢化社会が進み、慢性疾患を抱えながら生活する方々が増える中で、単に命を救うだけでなく、いかに快適で充実した生活を送れるかが重要視されるようになりました。患者さん一人ひとりの価値観やライフスタイルが多様化しているため、それに応じたオーダーメイドのケアが求められています。
かつては医療者が主導する場面が多かった医療ですが、今では患者さん自身が意思決定に参加し、主体的に治療やケアを選択する「患者中心の医療」が重視されています。患者さんの声に耳を傾け、その人らしい選択を尊重することで、患者さんの満足度だけでなく、自己肯定感や希望といった精神的なウェルビーイングも向上させることができます。
もう一つの大きな背景として、看護師自身のウェルビーイングへの意識の高まりがあります。過酷な労働環境や精神的ストレスが多い看護の仕事では、バーンアウト(燃え尽き症候群)のリスクも少なくありません。看護師が心身ともに健やかでいられることは、質の高いケアを提供し続ける上で不可欠です。組織として看護師のウェルビーイングを支援する取り組みも、徐々に広がりを見せています。
実際に、患者さんのウェルビーイングを高めるために、私たちはどんなことができるのでしょうか?日々の看護実践に活かせる具体的なヒントをいくつかご紹介します。
患者さんのウェルビーイングは、一人ひとり異なります。画一的なケアではなく、その人の背景、価値観、ライフスタイル、そして「こうありたい」という願いを深く理解することが出発点です。丁寧なアセスメントを通して、患者さんが何に喜びを感じ、何を大切にしているのかを把握し、それに基づいたケアプランを共に作成しましょう。例えば、食事が好きな患者さんには、制限の中でも楽しめるメニューを一緒に考えたり、趣味がある方には、病室でもできる工夫を提案したりするのも良いでしょう。
患者さんが自身の治療やケアについて納得して選択できるよう、適切な情報提供とサポートを行うことが重要です。難しい医療情報を分かりやすい言葉で伝えたり、選択肢のメリット・デメリットを一緒に考えたりすることで、患者さんの不安を軽減し、自己決定能力を高めることができます。患者さん自身が「自分で決めた」という感覚を持つことは、精神的なウェルビーイングに大きく寄与します。
患者さんのウェルビーイングは、医療職だけでなく、栄養士、理学療法士、ソーシャルワーカーなど、多様な専門職が連携することで、より包括的にサポートできます。例えば、退院後の生活を見据えて、ソーシャルワーカーと連携して地域の支援サービスを紹介したり、リハビリテーション専門職と協力して身体機能の維持・向上を図ったりするのも効果的です。チーム全体で患者さんの「満たされた状態」を目指しましょう。
患者さんのウェルビーイングを支援するためには、まず私たち看護師自身が心身ともに健やかであることが大切です。では、自分自身のウェルビーイングを高めるためには、どんなことに気を付ければ良いのでしょうか。
看護の仕事は、命に関わる責任や感情労働が多く、大きなストレスを伴います。自分自身の心と体のSOSサインに気づき、早めに対処することが重要です。例えば、十分な休息を取る、趣味の時間を作る、信頼できる同僚や上司に相談する、カウンセリングを利用するなど、自分に合ったストレス解消法を見つけましょう。
仕事とプライベートのバランスを保つことも、ウェルビーイングには欠かせません。「仕事のためにプライベートを犠牲にする」のではなく、「プライベートの充実が仕事の質を高める」という視点を持つことが大切です。シフト調整の工夫、休暇の取得、仕事以外の活動への参加などを通して、自分らしいワークライフバランスを追求しましょう。人生の様々な側面が満たされることで、看護師としての活力も湧いてきます。
「学び続ける」ことは、看護師としてのウェルビーイングを高める大切な要素です。新しい知識や技術を習得したり、困難なケースを乗り越えたりする経験は、自信とやりがいに繋がります。また、将来のキャリアパスを具体的に描き、それに向かって努力することも、働くモチベーションを維持し、精神的な充実感をもたらします。時には研修に参加したり、資格取得を目指したりするのも良いでしょう。
この記事では、看護におけるウェルビーイングとは何か、その意味や背景、そして患者さんや看護師自身のウェルビーイングを高めるための具体的なヒントをご紹介しました。
ウェルビーイングという概念は、単なる医療行為を超えて、患者さんの人生全体を支え、看護師自身の働きがいや充実感にも繋がる、非常に大切な視点です。日々の忙しい業務の中で立ち止まり、患者さんにとって、そして自分自身にとっての「満たされた状態」とは何かを考える時間を持つことは、きっと看護をより豊かにする羅羅針盤となるでしょう。ウェルビーイングを意識した看護実践が、医療現場をさらに明るく、温かいものにしていくことを願っています。